【広報コラム】

初心者向けかんたん物流コラム

2024年問題を打破!?物流革新に向けた政策パッケージとは?


アセンド株式会社の日下 瑞貴さんに「物流革新に向けた政策パッケージ」についての解説をしていただきました。

【サマリー】
★2023年6月2日、「物流革新に向けた政策パッケージ」が政府から発表された。
★具体的な施策として大きくは3つ。商慣行の見直し、物流の効率化、荷主や消費者の行動変容。
★運送会社だけでの物流効率化には限界がある。商慣行の見直しや消費者の行動変容も必要。
★政府から包括的に物流を変えていこうという方向性が示された。
★物流を取り巻く競争環境が適正化されていくことが期待される。

※当記事は、株式会社ライナロジクスが運営しているYouTubeチャンネル「物流ナビ」で公開中の動画「2024年問題を打破!?物流革新に向けた政策パッケージとは?」の内容を基にしています。



オープニング


【物流ナビ 司会】平野 貴規(以下、平野)
【ゲスト】アセンド株式会社 代表取締役社長 日下 瑞貴 氏(以下、日下)
【ゲスト】物流ライター 田中 なお 氏(以下、田中)

Speaker 1

平野:こんにちは、物流ナビの平野です。
今回は、2023年6月2日に政府から発表されました物流革新に向けた政策パッケージの解説を日下さんにしていただこうと思います。日下さんよろしくお願いいたします。


Speaker 2

日下:よろしくお願いします。


Speaker 1

平野:そして引き続き物流ライターの田中さんにも解説していただきます。よろしくお願いします。


Speaker 3

田中:よろしくお願いします。


物流革新に向けた政策パッケージの概要


Speaker 1

平野:まずは物流業界で話題になってる物流政策パッケージですが、日下さんに簡単に解説をいただいてもよろしいですか?


物流政策パッケージ 出典:内閣官房「「物流革新に向けた政策パッケージ」(令和5年6月2日我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議決定)」
Speaker 2

日下:今回は具体的な施策として大きく3つ取り上げられていて、
1つが商慣行の見直し、
もう1つが物流の効率化、
そして最後が荷主や消費者の行動変容というところが大きな項目になっています。
それぞれが25個ぐらいの政策の方向性として提示をされました。

25個をそれぞれかいつまんで説明することは難しいと思うんですけど、物流改革を考えていく時は、運送会社がどのように効率化をしていくのか、というのが2個目の施策の物流の効率化というところです。
ただ、やはり運送会社だけでできる効率化には限界があって、それが1つ目の商慣行です。

お耳にしたことがあるかもしれませんが、いわゆる3分の1ルールと言われる納品期限とか、やはりリードタイムの問題とか、そういったものを踏み込んでいく商慣行の見直しも提供されています。

最後の物流を受ける消費者とか、荷主に対しての行動変容というところでも、こちらにおける広報の仕組みの強化とか、または強化を公表していくという風な形で物流を起点としながら商慣行とか、消費者意識まで踏み込んだかなり包括的に物流を変えていこうという方向性が提示をされた形だと思います。


質問:荷主への罰則規定について


Speaker 1

平野:質問をこちらもさせていただこうと思っていますが、 政府から指針が発表されたことは、「第一歩だろう」という風な意見もあります。

荷主さんへの罰則規定であるとかそういったものについては責任の所在が不明確なのではないかという意見もありました。この点はどのようにお考えですか?


Speaker 2

日下:今回は一通り拝見はしたんですけれども、これ自体は既に指摘をされてる事項が多いというところです。

モーダルシフトも何十年も前に言われている議論ですし、3分の1ルールの見直しとか、リードタイムが短すぎるというところです。
これ自体も既に言われていたところなのかなとは思っております。

ただ、やはり評価をできるポイントとしては国土交通省だけではなくて関係閣僚会議というところで、経済産業省とか農林水産省まで含めて行政全体としてこういった問題を提起をしていった点。
内容に対する刷新性はそこまでないけれども取り組みの前向きな姿勢だったりとか、後押しをしていくという政府や行政の意思というところは、これまで以上に強く感じることができるのではないかという点は、評価をしているポイントです。


Speaker 3

田中:これを受けて小売業者さんが共同配送を進めようとか、そういう取り組みもかなり見られるようになってきましたね。

ニュースで味の素さんがお話をされていたんですけど、我々は加工食品の業界として結構荷待ちの問題があるというのは自分たちで分かっているから、嫌われてしまっている業界という風な認識でいらっしゃったみたいで。
こういうパッケージが出ることによって、かなり取り組みが進んでいくのかなと思いました。


Speaker 2

日下:味の素さんはかなり昔からF-LINEという会社を作ってやられていますよね。
まさに味の素さんみたいな取り組みというところを、他の会社さんや他の業界に進展をさせていくんだという一つの機運になれば良いなというところです。

これ自体は繰り返しますけども、新しいことは特には言ってはいない話になっていきますので、これをどういう風に具体的に落とし込んでいくんだとか、こういった内容を捉えて荷主さんとか各運送会社といった主体が積極的に推進をしていくところが期待をされると思っています。


質問:トラックGメンについて


Speaker 1

平野:トラックGメンが設置されるということに関しては、Twitterでは中身がないんじゃないか、「結局誰がそれをチェックするのか」「チェックする機能に対して誰がいつどういう風にチェックするのか」といった批判が一部出ていたと思います。

ただ、私としては置くということが明記されただけでも一歩前進かなと捉えているんですけども、皆さんはいかがですか?


Speaker 2

日下:評価はできると思いますけれども、難しいとも言えますよね。

要は優越的地位の乱用とか適正取引についての監査を提起していますけれども、「適正取引とはなんぞや?」というところですとか、「何をもって優越的地位の乱用なんだ?」というところはかなり見えにくい問題ではあります。
この辺を実行力を持ってどれだけ担保できるのかについては、注視をしなくてはいけないかなというところが一つです。

私はトラックGメンを見た時には、荷主との取引関係の前にまずトラック運送業としての適法性をしっかりと監査をするというところが先かなという意識はあります。
労働時間をしっかり守っていくとか、社会保険料を払っている・払っていないとか、そこは法律上ではっきり分かる議論なので、その辺をしっかり取り締まりをした上で、さらに荷主さんとの関係についても監査を強化していきましょうという風な議論の順番の方が筋は良いというのは個人的な見解として思ったところです。


Speaker 1

平野:トラック会社の中の問題を実は先に洗い出さなくてはいけないということですね。


Speaker 2

日下:かつそこは解釈が少ない余地なので、はっきりと監査しやすい領域をまずは見えるところ、分かりやすいところをしっかりやっていくんだという順番はやはり忘れてはいけないポイントだと思います。


Speaker 3

田中:政策の中で「自主行動計画を出してくださいね」という言葉がいくつか出てきたんですけれども、自主行動計画は結局荷主側の立場になってみると、何をすれば良いのか具体的に分からないというのがあって、ホワイト物流という少し前に取り組みがあったんですけど、やはり同じような感じだったんですね。

「できることを示してください」、そうすると「パレットの標準化をします」、あとは「トラックバース予約システムを入れます」という言葉がたくさん並んでいて、根本的に解決になるのかなというのは少し疑問に思ったんですけど、そうならないと良いなと思います。


Speaker 2

日下:自主宣言なのでいかようにもできてしまうので、そこがちゃんと問題の本質を捉えた自主宣言になるように審査ができると良いなと思います。
補助金をつけて審査を挟むというところで、外部のコンサルティング会社が入るというスキームは考えることはできますが、恐らくそういった類のものではないので、本当に各社が自主的にどこまでレベルの高い宣言ができるかどうかというところが注目されます。


質問:多重下請け構造について


Speaker 1

平野:指針の中に多重下請け構造に関する指摘もありました。
アメリカでは多重下請け構造が禁止されていると思いますが、日本は踏み込んでいく必要性があるのかどうかということについて、ご意見を伺いたいです。


Speaker 2

日下:これもよく30〜40年も指摘されている課題だと思っていまして、多重下請け構造が良いか悪いかと言われると、これは悪いことだと思います。
ただし、その悪いものがなぜ30年40年残ってるんだというところに対するしっかりとしたジャッジがないままに、「多重下請け構造が悪だ」と議論を続けていても私はやはり議論は進展しないと思っています。

結局多重下請け構造になってしまうのは、自社で営業する営業力がないとか、または案件を獲得しても与信力がないというところです。
やはりこういった問題を解決すべきであって、逆に言うとこれが解決されると多重下請け構造がなくなるはずです。

本来営業するところでマージンを抜かれて良い会社は1つもいないわけですから、「それが存在している理由は何だ」ということに対してメスを入れていかないと、そこを法律で区切ったところで、むしろ荷物が取れなくなったりとか、 または営業ができなくなっていったりとかというところ、そういった逆効果ありますので、ちゃんと原因と構造に対してメスを入れていくところは忘れてはいけない視点だと思います。


Speaker 3

田中:国の話し合いにも日下さんは参加されていると思うんですけど、これはあまり踏み込んで話はされていないような気がするんですけど、踏み込んで話はされているんですか?


Speaker 2

日下: やはり多重下請け構造という議論とか、またはアメリカでは二次下請けまでになっていますので、そういった議論が多いですね。

私は常々申し上げているのは今のところで、「なぜ多重下請け構造になっているのか」というところの原因と構造にメスを入れるべきというところになかなか踏み込めていないのが実情だと思っています。


Speaker 1

平野:原因となっているのは営業力の問題であるとか、いわゆる多重下請けにならざるを得ない構造になっている、本当は元請けや一次請けになるべきだけれども、それができないトラック運送会社さんの構造に問題があるのかもしれないということなんですね。


Speaker 2

日下:おっしゃる通りですね。やはりそこを各社の企業の経営力を高めていくこともそうです。
またはもう少しドライに言うと、そもそも物流子会社が入っていきますので、そこがノンアセットでやっている以上は絶対に二次請けになるわけですね。

例えばJR貨物とかが運ぶ時には長距離になっていきますので、そこは請けて発地でいて着地でいて、ラストワンマイルがいてという構造で運んでいくので、これは嫌でも四次請けになる世界観もあったりするので、ちゃんとメッシュを細かく見ていかないといけないというベーシックな議論だと思います。


質問:トラック運送事業者と荷主のパワーバランスについて


Speaker 1

平野:質問の4つ目です。政策パッケージによって、中小の運送事業者と荷主のパワーバランスは均衡になっていくんでしょうか?


Speaker 2

日下:何もしなければ均衡にならないと考えたほうが良いのかなと思っています。

そもそも官民関係をどう考えるのかというところの議論ですけど、政府がこう言ったから関係として良くなるというのは運送業界としては甘えですよね。
やはり政府のことを追い風にしながら、ちゃんと荷主さんに対して、具体的にポイントを絞って定量的に議論をしていくという風に運送会社がやることによってパワーバランスの不均衡は解消されるのではないかというところで、やはり捉えなくてはいけないと思っています。

これがあるから変わるというよりはこれを契機に運送会社が変わることによってパワーバランスが初めて対等になってくるのではないかなという風に思っています。


Speaker 1

平野:政府側としてはこの問題を是正しようと結構深いところまで切り込んできていることについては間違いはなさそうですか?


Speaker 2

日下:そこについてやはり荷主さんのところの不均衡というところまでお話をされているので、非常に良いと思っています。

ただ、これも先ほどの議論と同じで「なぜ不均衡になっているんだ」というところが、やはり突っ込まなくてはいけなくて、一般的に言われているのは90年の物流二法制定後、40,000社の運送会社が60,000社になった、20年で1.5倍に増えました。
結果として供給が多すぎて需要を上回ってしまったので不均衡になっています。といった説明ですね。

とするのであれば、そもそもそこで供給を制限をしていくだったり、または半分グレーゾーンな営業をしているような運送会社に対して、厳しい判断をしていくと、そうすることによって競争環境を適正化していくという風に、行政的なリーディングをしていくことが、私はやはり官民関係としての適切な形になってくると思っています。


Speaker 1

平野:国は運送会社を減らしたいのではないかという指摘をされる方もいます。こちらはどうなんでしょうか?


Speaker 2

日下:減らしてほしいというところは、業界の方含めて皆さん思っているところがあると思うんですね。
やはり本当に数が多すぎて、かつそこで適正な競争が行われていないところですね。

そこに対する監査も行われていないのではないかというところは、結構業界の方は共通で思われていると思っています。
荷主さんとの関係以上にまずはトラック運送業の適正化、適正な競争環境の創出というところが行政として一番取り組むべき課題という認識をしています。


Speaker 1

平野:2024年問題を契機に政府としては適正な競争環境を作っていくというような形で入り口になるというのが今回のパッケージという認識で大丈夫ですか?


Speaker 2

日下:そうですね。色んなことが出ているので、論点をブラさずに適正な競争環境を作るというところに私はフォーカスを絞って実行力を持ってやっていただくことに期待しています。


Speaker 3

田中:パワーバランスという意味では、今運送会社さんの方にフォーカスされていましたが、荷主さんの荷待ちだけでなく、態度とかそういうところも結構重要になってくると思っていて、高圧的に言う荷主さんとはやはりいると思います。

そういうところに対して、需要と供給が崩れた時にちゃんとトラックが回ってくるのかと、私はそのようには思っていなくて。
そういう意味でもパワーバランスがどういう風に均衡を取っていくのかというのは、今後どうなっていくのかなというのを見ていきたいところではありますね。


Speaker 2

日下:おっしゃる通りだと思っています。
結局荷主さんがそういうことをすると、選ばれなくなる時代になってくるはずです。
そうなるのが一番良いと思っているんですね。

これを行政のルールによってそうなるのではなくて、適正な経済環境の競争原理の中で悪い荷主が選ばれ なくなってくるという風に働いていくように行政としてはルールメイキングをしていくことが大事なポイントだと思います。


質問:荷主が注意すべきポイント


Speaker 1

平野:5問目の質問にいきたいと思います。
今回の指針の中で荷主企業が押さえておくべきポイントを教えてくださいというのがありました。ポイントは何かありますか?


Speaker 2

日下:色んなポイントがあるかなという風に思っていますけれども、私が一番重要だと思っているのは、物流コストを含めた取引価格の見直しというところですね。

今まで物流改革が進まない大きな原因としては、製品料金に物流費が含まれてしまっている点。なので着荷主としては物流コストを把握できなかったんですね。
当然コストが分からないものは高い低いもないので、そこに対して改善するインセンティブが働かないという構造になっていたところです。

ただ、これが「製品代はいくらです」「運賃はいくらです」みたいな世界観になってくると、正しく運賃と物流費を把握していくことが着荷主ができるようになっていきますので、そうすることによって物流改革のバラエティといいますか、選択肢はかなり広がってくるのではないかという風に思います。
ここを契機に着荷主まで含めた物流の効率化が進んでいくというところ大きく期待をしたいと思っています。


Speaker 1

平野:田中さん意見はありますか?


Speaker 3

田中:荷待ちの2時間以内ルール、または1時間以内に努力目標というのが出ていたんですけど、 ここを結構難しいと感じる荷主さんももしかしたらいるのではないかなと思っていて。

これどういう風にしようというのが、私が今まで働いていて感じていたことなんですけど、着時間は物流部門と営業部門があって、営業部門の方が気を遣って「朝は早く行った方がいいだろう」みたいな形で9時着とかを勝手に言っていることが結構あって、それこそ一気通貫で情報を分かるようにしておかないと、これは難しいのではないかなと思ったんですね。

なので、運送会社でできること、荷主でできることとしては営業部門と物流部門の連携が必要というのは1つあると思いました。


Speaker 1

平野:情報共有というのは、あまりできていないというイメージなんですか?電話でやっている感じですか?


Speaker 3

田中: 電話でやっていて、あまりできていないです。

「9時着ができません」となった時にそれを営業部門に返すと、「9時ではなくて大丈夫です、午前中で大丈夫でした」みたいな話がやっと出てきたりするので、そういうのが根本の問題としてもしかしたら1つあると思います。


Speaker 1

平野:早めに荷物が来るように要求してしまうみたいな感じですか?


Speaker 3

田中:早く着いていた方がいいだろう、受け取れる時に受け取れるようにしておこうみたいな、少し無駄な心遣いがあるみたいですね。


Speaker 1

平野:それが荷待ちに繋がってしまう?


Speaker 3

田中:一つあると思います。


質問:政策パッケージは運送事業者にとってチャンス?


Speaker 1

平野:6問目になります。今回の物流政策パッケージは運送事業者にとってチャンスですか?


Speaker 2

日下:間違いなくチャンスにはなってくると思います。

供給が減っていく中では、希少性が上がっていきますのでトラック運送業としては荷主さんに対してもっとフェアに交渉がしやすいという風な環境になってきます。
一方で荷主さんとしては物流のリスクが上がってくる時代だと思っております。
今回は物流革新に向けた政策パッケージというところで、色んなものが提案されていますけれども、その1つ1つをしっかり読み解くこと以上に物流リスクが上がってきているというところを認識の基に、例えば契約書の条件とか付帯業務の内容とか待機時間は洗い直すというところを、やはりすぐにも着手をされるということが荷主企業さんとしては取らなくてはいけない行動だと思います。


Speaker 3

田中:おっしゃる通りでやはり現場に行って見ていた感じからしても、やっていらっしゃるところは付帯作業の料金化とか待機時間の料金の請求というのは、以前からされてる業者さんがいらっしゃるんですよね。

そういうのを知らなくて運賃の中に込み込みでやっている業者さんも多いのではないかなと思っているので、改めてこういう政策パッケージで周知をして取り組んでいくのが良いかと思います。


Speaker 1

平野:これを活かさないと、なかなか厳しくなっていくというのが現実かもしれないですね。

なので政府としてもこういう機会を提供しているわけですので、運送事業者の方もうまく活用するというか、ここで経営を改革するんだということをしていただく必要性が出てきているという風に思っています。


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