ロジスティクスAI 戦略のポイント
【花房先生執筆コラム】SCM実行系スマートロジスティクスのススメ 第4回
マクロ経済学では経済活動を企業所得、家計所得として認識することになる。日本ではGNPとして約500兆円が付加価値創造、経済活動の成果として景気を左右する指標に利用されている。実はこの計算、あまりにもいい加減でびっくりするほどであるが、最近までは設備投資や研究開発費用が含まれていなかった。同様に災害発生時の被害額や保険費用なども除外されていて、経済の実態とはかけ離れた計算をしていたことになる。
経済活動には生産と流通が代表的であり、モノの生産には機械(Kコスト)と労働(Lコスト)が必要で、原材料は付加価値計算からは除外される。つまり、価値は機械利用と労働力で作られるから、設備投資の年間経費に相当する減価償却費用と労働力は給与賃金の支払額で示されることになる。
話題はロボットが雇用を奪うのか、労働力の代わりにロボット設備投資が有効に機能するのかどうか、という論点である。
結論から言うと労働力はロボットという機械に取って代わることになるのだが、労働力がゼロになるということはない。機械は単純動作や反復繰り返しには適しており、場合によっては状況判断程度はできるものの、ヒトの指先代わりにはまだまだならない。
義手や義足というものが登場してはいるが、指先の代わりはまだまだだからだ。
生産現場や流通店舗では、足や腕の代わりになる機械ロボットは大歓迎されるだろう。
労働者の行動分析によって、数えて運ぶ活動のうち足や腕に頼った活動はたくさんあるに違いないから、労働軽減や時短には効果的といえる。
しかし、問題は付加価値創造のための資本コスト、労働コストの比較にある。給与賃金より、月額のロボット利用料が低くなるのなら、ロボットは人手不足解消に効果的なのだ。
ソフトバンクの店頭や回転寿司の案内係になっているペッパー君はあちこちで人気になっている。当初の販売価格が20万円程度だったから、さぞかし手軽なロボットとなったに違いない。実態は3年契約で総額120万円(36回均等、諸費用込)となるから、毎月3万円となる、手頃でいい感じだが家庭での子ども相手には高額すぎる。
できることはコミュニケーション程度だから、工場や物流現場での労働力には程遠い。
では、話題の産業用バクスター(リシンク・ロボティクス社)も25千ドルと約300万円ほどであり、こちらは製造現場用に開発された特機と言える。優れた性能と機能はすでに多くの製造工場で活躍しており、事例も豊富に探すことができる。
300万円では本機だけでプログラム費用は別に掛かるが、内製も可能であり、据え置き型の腕や足の代わりに十分機能する。
減価償却費用は月額6万円程度になるから、バイト費用と相殺できる経費となる。
仮に10台設置しても3名分の働きを設計できれば、十分に投資回収が可能となるだろう。
物流は数えて運ぶ単純作業と見なされるが、その実は大いなる課題を抱えている。コンベアのように定時定量のしごとが流れるわけではなく、待ち時間も多く、時間帯による作業波動は激しく、標準化作業を組み入れること自体が難しい現場といえる。
ピッキング支援の自動搬送機や収納格納支援ロボットが多く登場するようになってきているが、定時定量作業には有効であっても波動や割り込みなどの、人が得意とするような変動作業には不適であるから、場内の作業設計が極めて重要になるのは明らかだ。
しかも、搬送機自体はfactoryAutomation時代に比べて遥かに低価格となったはずだが、それでも1台あたりは軽自動車レベルの価格であり、500万円はくだらないだろう。
月間の減価償却費用は2%で保守費用までも含めることができるとしても、月額10万円では数台ですぐに巨額な費用となってしまう。数十台〜を導入した物流センターがあると広報されていいるが、それでは総労働要員数が100名を越える巨大現場に違いない。
ロボティクスを導入して人手不足を解消するには、数百人が働く現場でないと採算が合わないとしたら、まさに自己矛盾を起こしていることになる。
ただ、話題の物流センターは24時間休みなく稼働する、作業者が働くには過酷な現場であることを思えば、徐々にヒトと機械が入れ替わってゆくのは自然の流れかもしれない。
ロボットで人手不足を解消するには、極めて長期的展望に基づく計画であることは確実であり、設備投資と労務費分解では採算が成り立たないことを覚悟しなくてはならない。
==
本コラムは書籍『スマートロジスティクス ~ IoT と進化する SCM 実行系~』発刊を記念して、
監修者である花房 陵先生にご執筆いただいています。
書籍の中から特に今の時代に重要なテーマをピックアップしてご紹介いただく予定です。
今後も次のような興味深いテーマについて取り上げていく予定ですので、
是非、楽しんでご購読いただければと思います。
・これからの3PLビジネスに勝機はあるか
・自動運転トラックの可能性と倫理問題
++花房 陵
1978年慶大経済学部卒
経営・物流コンサルタントとして30年以上の豊富な実績をもち、
28業種200カ所以上の物流現場を指導してきた。
異業界などの最新トレンドの物流施策を導入・定着させる手腕には定評がある。
ロジスティクス・トレンド(株) 代表取締役、
(株)イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント、
協同組合物流情報ネット・イー相談役、ほか多数の物流顧問を務める。
弊社の自動配車システムは、物流にかかわる事業者様に広くお使いいただけるよう、
物流現場で見られるあらゆる制約・条件に対応しております。
30日間の無料試用も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。